静かな朝、2匹のボーダーコリーが走り出す——羊と心を通わせる瞬間
朝日が山の端から顔を出すころ、牧場の空気にはまだ少し夜の冷たさが残っていた。草原に薄く霧が立ち込め、遠くの木々が幻想的にぼやけて見える。
そんな中、私が一番好きな光景がやってくる。
小屋の扉が静かに開き、「ララ」と「ビル」が静かに姿を現す。2匹のボーダーコリー。まるで舞台の幕が開いた瞬間のように、彼らは風を切って走り出す。今日もまた、羊たちを群れにする時間だ。
◆ ララとビル、正反対の性格
ララは穏やかで慎重。動きは静かで無駄がなく、視線ひとつで羊を導く名手。まるで草の上を滑るように動くその姿は、美しくて見とれてしまうほど。
ビルはというと、少しやんちゃで感情豊か。嬉しいと飛び跳ね、失敗すると耳をペタンと下げて反省する。けれど、その柔らかい愛嬌と直感的な判断力は、ララとはまた違う魅力を放っている。
そんな異なる2匹がコンビを組むと、不思議とバランスが取れていて、驚くほど見事に羊を導くのだ。
◆ 言葉はいらない。心で通じ合う仕事
ララとビルが走ると、羊たちがスッと動く。まるで風が流れて、草が一斉になびくかのような自然さで。彼らは吠えることもあれば、黙って目線だけで指示を出すこともある。
そのやりとりは、まるで“会話”だ。
「左から回って。」「今はまだ待って。」
ララの静かな判断に、ビルは素直に応える。時に先走るビルを、ララが軽く前に出て抑えたり。まるで長年連れ添ったパートナーのように、言葉を使わずに意思を伝え合っている。
彼らの動きは、見ていて飽きることがない。機械のように正確でありながら、生きた感情が溢れているからだ。
◆ 羊たちも知っている
不思議なことに、羊たちもこの2匹のことをよく分かっているようだ。ビルが近づくと少し身構えるけれど、ララが近くにいると、すっと落ち着きを取り戻す。彼らの間には、見えないけれど確かな“信頼”が流れているのだろう。
怖がらせず、でもはっきりと指示を出す。そうして、1頭1頭の羊を大切にしながら、全体を美しくまとめていく。
ララとビルに導かれ、羊たちが同じ方向へと歩いていく光景には、命と命が調和する不思議な力がある。
◆ 技術ではなく「愛」で働く
ボーダーコリーは世界一賢い犬とも言われる。でも、ララとビルの動きは“賢い”だけでは語りきれない。
彼らは「仕事」をしているというより、「使命」を感じて動いているように思える。そこには訓練だけで身につけられるものではなく、「この牧場で生きる」という強い意志と愛がある。
人間がどんなに高性能な道具を持っていても、この2匹のようにはできない。なぜなら、彼らは“心”を使って仕事をしているから。
今朝も、霧の中を2匹が駆け抜ける。
草の匂い、遠くから聞こえる羊の鳴き声、そしてララとビルが生み出す“静かな奇跡”。私はそのすべてを、少し離れた場所から見守る。
彼らは何も言わないけれど、その背中はたしかにこう語っている。
「ぼくらは今日も、命を預かってるんだよ。」
——そして私は、胸が少しだけ温かくなった。
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