この犬は飼い主と一緒にパラグライダーに行ってとても楽しかったようです。
ある風の心地よい午後、山の中腹にある草原に、小さな影がぴょこんと跳ねるように現れました。それは、くるんと巻いた尻尾を嬉しそうに振りながら、リードを引いて先を行く犬の姿。名前は「ソル」。中型のミックス犬で、少しシャイだけれど、飼い主のアヤがそばにいるとどこまでも勇敢になれる、不思議な力を持っていました。 この日、アヤは長年の夢だったパラグライダーに挑戦するため、山にやって来ていました。でも、ただの挑戦ではありません。なんと、一緒に空を飛ぶパートナーは、彼女のかけがえのない家族――ソルだったのです。 「本当に大丈夫かな?」と何度も確認しながら、インストラクターと話すアヤ。その足元では、ソルが草の匂いをクンクンと嗅ぎながら、首をかしげてアヤを見上げます。その目には不安の色はまったくなく、「早く行こうよ」とでも言いたげなキラキラした期待が満ちていました。 ハーネスを着けられ、アヤの胸元にしっかりと抱かれたソルは、最初、少しだけ耳を後ろに倒しました。でも、ふわりと風を受けて地面が遠ざかっていくと、パッと表情が変わります。眼下に広がる緑のじゅうたん、遠くで輝く湖面、そして頬をなでる風。まるで世界が音を立てて広がっていくような感覚に、ソルは小さく「ワン」と一声、まるで喜びを噛みしめるように吠えました。 空のなかで、アヤとソルはひとつになって、風に身を委ねていました。ふたりの影が、ゆっくりと山肌を滑っていく様子は、まるで風と友だちになったように見えました。そしてソルのしっぽはずっと左右に揺れていて、その時間がどれだけ楽しいかを物語っていたのです。 着地の瞬間、アヤが「よくがんばったね!」と声をかけると、ソルはピョンと跳ねて彼女の顔をぺろり。足元に戻ってきたインストラクターも、「あんなに楽しそうな犬、初めて見ましたよ」と思わず笑ってしまいました。 この冒険のあと、ソルは少しだけ“空を飛んだ犬”として近所で有名になりました。でも、ソルにとっては「空を飛んだ」ことよりも、「アヤと一緒だった」ことが、何よりの喜びだったのでしょう。空のなかで感じたあの自由さ、風の音、アヤの心臓の鼓動――そのすべてが、ソルの心に深く刻まれているのです。 犬は、いつも飼い主の感情に敏感です。そして、飼い主が楽しそうにしているときこそ、犬はもっとも幸せを感じます。ソルがパラグライダーを「楽しかった」...