ぽっちゃりした猫、ふわふわした猫、遊び心のある小さなボール
その日、雨がしとしと降っていた。
外の世界はグレーのヴェールに包まれていて、窓ガラスを伝う水滴が、どこか寂しげな音を立てていた。でも、うちのリビングには、まったく別の“天気”が広がっていた。
ソファの上、クッションに埋もれるようにして丸まっていたのは、ぽっちゃり猫のココ。白とベージュの毛が混ざった、ふわっふわのボディ。そして、そのそばに転がっていたのが、ココの大のお気に入り——遊び心たっぷりの小さなボール。
直径5センチくらいの、毛糸で編まれた赤いボール。中に鈴が入っていて、転がすたびにチリンと可愛い音が鳴る。ココがこのボールに夢中になったのは、もうずいぶん前のことだ。
「遊ぶ」ということを、私はココから学んだ。
ココはもともと、とても落ち着いた性格の猫だった。お昼寝が何より好きで、朝ごはんのあとにソファで丸まり、夕方にはベランダの陽だまりで毛づくろい。そしてまた寝る。
そんな彼女に“変化”が起きたのは、私がたまたまペットショップで買ってきたあの小さなボールを床に転がした日。
何の気なしにボールを投げたその瞬間、ココの耳がピクリと動いた。
そして、まるで別の猫に生まれ変わったかのように、どすん、と床に降りて、ちょい、ちょい、と前足でボールを転がし始めたのだ。
ふわふわの体が揺れながら、夢中になってボールを追いかけるその姿に、私は息を呑んだ。
「こんなに動けたんだね、ココ。」
ちょっとどんくさい。でも、それがまた愛おしい。転がったボールに飛びつこうとして、滑ってしまったり、手で押さえたつもりが、勢いでさらに遠くに行ってしまったり。
それでも、目をキラキラさせてまた追いかける。
その真剣な顔が、なんとも言えず面白くて、かわいくて、目が離せなかった。
ココの動きはたしかに“ぽってり”しているけれど、それが逆に味わい深いのだ。ちょっとしたことでも、笑いが起きる。心がほどける。
猫は、教えてくれる。
「完璧じゃなくていいよ」
「ちょっと不器用でも、それが魅力なんだよ」
そんな風に語りかけてくるような、ぽっちゃりした後ろ姿。ふわふわの毛に触れると、なんだかこちらまで優しい気持ちになれる。
そして、小さなボール——たったそれだけで、ココの毎日がちょっと豊かになるように、私たちの暮らしにも、ちょっとした“遊び心”が大切なんだと気づかされる。
雨の日も、風の日も。
ココとボールの物語は、静かに、でも確実に続いていく。
今日もまた、ボールをチョンと転がして、ココの反応を待つ。
ころん、と一瞬だけ迷ってから、もそもそと動き出すあの姿。
そして、鈴の音とともに始まる、ふたりだけの“午後の冒険”。
私は、そんな時間が何より好きだ。
何か特別なことがなくても、
ふわふわした体と、小さなボールがあれば、
日常はきらめきに満ちている。
「ぽっちゃりした猫」「ふわふわした毛」「遊び心のある小さなボール」。
それは、ただの可愛い組み合わせではなくて、
毎日をやさしく照らす、ちいさな魔法かもしれない。
Nhận xét
Đăng nhận xét