獰猛でうなり声を上げる母ピティが、とても面白いカメムシに変身する
ある日、私たちの暮らす小さな町に、ちょっとした「事件」が起きました。といっても、誰かがケガをしたわけでも、警察が動くような騒ぎがあったわけでもありません。ただ、ひとりの母犬、ピティの“変身劇”が私たちの心に忘れられないインパクトを残したのです。
ピティは、町の皆がよく知るピットブルのお母さん犬。ずんぐりとした体格に鋭い目つき、そしてなにより、赤ちゃんたちを守る時のうなり声は雷のように響き渡り、誰もが一歩引いてしまうほどの迫力でした。でも、彼女のことを本当によく知っている人なら、その内側にある“母の愛”の深さと、驚くほど繊細な感受性を知っているはずです。
それでもその日までは、ピティが「面白い」とか「お茶目」とか、そんな形容詞で語られることなんて一度もありませんでした。
春のある朝、町の公園でのんびりした時間を過ごしていたときのことです。私は遠くからピティと彼女の子犬たちが芝生でじゃれ合う姿を見ていました。ふと、その中でピティが突然ジャンプし、何かに驚いたように後ずさるのが見えました。何事かと思って近づいてみると、そこには――一匹のカメムシが。
それは、どこにでもいるような、ちょっと見た目の強そうな昆虫。でも、ピティにとってはどうやら“未知との遭遇”だったようです。ふだんなら吠えたり威嚇したりして威厳を保つピティが、なんと目を見開いて後ろ足で跳ねながら、ぐるぐると回転を始めたのです。口からは「ウゥ…ワフ!ワフ!…ワンッ!」と、怒っているのか驚いているのか、よく分からない声。
子犬たちは最初きょとんとしていましたが、すぐに「これは遊びだ!」と思ったのでしょう。みんなしてピティのまわりを跳ね回り、まるでダンスパーティー。公園にいた人たちは一部始終を目にし、大人も子どもも思わず大笑い。
「獰猛でうなり声を上げる母ピティが、とても面白いカメムシに変身した瞬間だ!」
誰かがそう冗談まじりに言ったその言葉は、その場の笑いをさらに広げました。そしてそれ以来、ピティは“カメムシ事件”の主人公として、町のアイドルになったのです。
あの日からというもの、ピティはまるで自分が人を笑わせられると知っているかのように、ときどきわざと間の抜けた顔をしたり、おどけた動きを見せたりするようになりました。もちろん、子犬たちの前では今も頼れる母。誰かが近づこうものなら、ピリッとしたうなり声を響かせて「私の赤ちゃんには手を出さないで」と言わんばかりの態度。でも、その裏にはあのカメムシに見せた無邪気さと、ちょっとしたドジっぷりがあるのです。
私たちはピティのその二面性にすっかり魅了されてしまいました。強くて、優しくて、そして時には面白くて。まるで人間のように感情豊かで、表現力にあふれた彼女の存在は、この町の空気をやわらかくしてくれる魔法のようなもの。
「変身」とは、見た目を変えることではなく、心が開かれることなのかもしれません。あの日、たった一匹のカメムシが、ピティの中のもうひとつの“魂”を引き出したのです。それは、怖さの向こうにある可笑しさ。そして、愛の深さの中にひそむ、おかしみと温かさ。
ピティがくれたその瞬間は、今でも私の心のアルバムの中で、もっとも鮮やかに輝いています。そう――母ピティがカメムシになった日。あれはただの出来事ではなく、笑いと優しさの物語だったのです。
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