面白い猫
ある朝、私は目覚まし時計よりもずっと騒がしい“ニャー!”という叫び声で起こされました。枕元には、どこからか引っ張り出してきたと思われるバナナの皮。そして、その隣には、誇らしげな顔をした一匹の猫。彼の名前は「もち」。けれど、家族の誰もその名で呼ばず、「隊長」や「社長」「変なやつ」といったあだ名の方がしっくりくる存在です。
もちが我が家にやってきたのは、寒い冬の夜でした。近所の段ボールの中に、ちんまりと体を丸めていた子猫。鼻の頭に小さな黒い点があって、まるでペンでちょんと描いたようなその模様に、一目惚れしてしまったのです。でも、その見た目にだまされてはいけませんでした。可愛い顔に反して、中身は完全に“芸人”です。
もちの面白さは、まず歩き方にあります。普通の猫はしなやかに、音もなく移動しますが、もちの場合はまるでスリッパを引きずるおじさん。さらに、本人(?)は完全に“ステルス任務中”だと思っているらしく、床にぺたんと張り付くように進んでいるつもりが、実際はカサカサ音を立てながら、微妙にずれていくという摩訶不思議な動き。たまにソファの下に頭だけ突っ込んで「見つかってない」と満足そうにしているのも、また笑えます。
そして、もちの特技といえば「演技力」。叱られると、決まって前足をそろえて“反省ポーズ”をとるのですが、次の瞬間には背を向けて高速毛づくろい。「僕は今、忙しいので、あなたの小言は受け取れません」とでも言いたげな態度です。でもその後、こっそり私のひざに乗ってきて、「ちょっと怒ってごめん」と目で訴えるような表情を見せるから、本当にずるい。
おもしろい行動は日々進化しています。冷蔵庫を開けた瞬間にダッシュで駆け寄り、魚を奪おうと狙う「冷蔵庫の番人」。洗濯物をたたんでいると、なぜか必ず靴下の山に埋もれようとする「柔らかフェチ」。そして一番不可解なのは、テレビのニュースキャスターが話し始めると、自分も「にゃーにゃー」としゃべり出すこと。「世界の出来事には私も意見があります」とでも言うつもりなのでしょうか。
だけど、もちが面白いのは、ただ奇行が多いからではありません。その一つ一つに、どこか“人間っぽさ”があるからです。たとえば、落ち込んでいるときに限って膝に飛び乗り、私の顔をじっと見つめてくる。嬉しいことがあった日には、一緒に走り回ってくれる。まるで、感情の起伏を分かち合ってくれているような存在。
ある晩、寝る前にベッドに入ったら、もちが先に寝そべっていて、自分のしっぽをまくら代わりにしていました。電気を消すと、彼がのそっと立ち上がり、私の顔の近くに頭をくっつけてきたんです。その体温はじんわりと温かくて、「今日も一日、笑って終われたな」と思わせてくれました。
面白い猫、もち。彼がいるだけで、日常がふわっと明るくなる。彼はただのペットじゃなく、わたしの毎日のスパイスであり、癒しであり、笑いの源なのです。たとえどんなに疲れた日でも、もちのちょっとズレた行動を見れば、自然と笑顔がこぼれてしまう。
面白い猫って、実は世界で一番優しい存在かもしれませんね。
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