まるで映画のワンシーン――アヒルを追う犬の物語

朝露がまだ芝生の上に残る静かな農場。その日、私は何気なく見ていた庭の向こうに、小さな騒動が起こっているのを見つけました。軽快に尻尾を振る一匹の犬。そして、その前をバタバタと走る一羽のアヒル。

いったい何が起きているのだろう？微笑ましさと少しの驚きが混ざったその光景に、私はしばらく目を奪われてしまいました。

犬がアヒルを追いかける――それだけ聞くと、ちょっとした追いかけっこやいたずらに見えるかもしれません。でも、そこにはもっと深いストーリーがありました。

 出会いは偶然、それとも運命？

その犬の名前は「ソラ」。元は迷い犬で、この農場にやってきたのは去年の夏。人懐っこい性格で、すぐに農場の家族の一員となりました。そして、アヒルの「ポン」は、まだひよこの頃に市場からやってきた子。ふわふわした黄色い体で、どこかいつも寂しげな目をしていました。

最初はお互いに距離を置いていたソラとポン。けれどある日、小さな転機が訪れます。嵐の晩、アヒル小屋の扉が風で開き、ポンが外に出てしまったのです。ずぶ濡れで震えるポンを見つけたのは、ソラでした。翌朝、ポンはソラの体に身を寄せて眠っていました。

それからというもの、2匹はまるで兄妹のように過ごすようになります。

追いかけるのは「遊び」？それとも「絆」？

さて、話は冒頭の場面に戻ります。芝生の上を軽快に走るソラ。そしてその前をバタバタと逃げるポン。けれどよく見ると、ポンもどこか楽しげな様子。時折くるっと振り向いて、ソラに「ほら、こっちだよ」と言っているかのようです。

これは決して“狩り”ではありません。これは“遊び”。ソラは決して本気で追いつこうとはせず、一定の距離を保ちながら、ポンの後ろを走っているのです。ポンもそれを分かっているかのように、安心した様子で飛び跳ねています。

こうした姿を見るたびに、私は「動物の間にも友情や信頼があるんだな」と感じるのです。

 見えてくる、命の温かさ

人間が忘れかけている優しさ、絆、そしてシンプルな遊びの楽しさ。それを無言で教えてくれるのが、こうした動物たちの姿なのかもしれません。

ソラがポンを追いかけるのは、毎朝の日課となり、いつの間にか農場の風物詩のようになっています。見ているだけで心がほぐれていく。日々の喧騒の中で、こんな風景があることに、私は深い安らぎを感じるのです。

アヒルを追う犬というと、少し奇妙でコミカルな印象を持たれるかもしれません。でも、その裏には言葉にならないほどの優しさと信頼の積み重ねがあるのです。

あるがままを楽しみ、相手を尊重する。ソラとポンの追いかけっこは、まるで小さな命が奏でる「やさしい交響曲」のように感じられました。

もし、あなたの目の前で犬がアヒルを追いかけていたら――その先にある「物語」にも、ちょっとだけ耳を傾けてみてくださいね。